有機合成化学の力量を示す大きな出来事の一つとして、64個の不斉中心を持ち、分子量2680の複雑かつ巨大な分子であるパリトキシン(C129H223N3O54)の全合成が1994年に達成されました。これだけの原子を順序よく繋ぐだけでも大変なのに、1021を超える立体異性体の中からただ一つの構造を選択的に構築した当時の有機合成化学の偉大さに敬服いたします。あれから20年が経った今も、次々と新しい合成手法が開発されつつあり有機合成化学の発展が続いています。
有機合成化学は、生理活性物質や機能性有機材料、およびこれらの合成中間体を社会に供給することにより、現在の文明社会を支えているセントラルサイエンスそのものであると思います。時代が移るにつれて合成化学に求められるニーズも益々多様かつ高度になり、更なる発展に期待が寄せられています。有機合成化学協会はこの学術分野の中心的存在ですが、今後も求心力を持ち続けてほしいと願っています。特に、この学術分野の重要性を社会に広くご理解頂く為の活動や、産学の多くの研究者が集う場所を提供するという使命も重要と思います。関西支部は本協会の全会員の1/4程度の会員数を有し、関東支部に次ぐ大きさです。歴史的にも、関西には電気メーカーや製薬企業が多く、有機合成化学が発展する素地が有り、産学の交流も密に行われてきました。今後もこの良き伝統を引き継ぎ、有機合成化学協会およびこの関西支部が益々発展する事を願っています。
2014年度有機合成化学協会・関西支部長
神戸 宣明
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