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支部長挨拶

2012年度有機合成化学協会・関西支部長 戸部義人

 有機合成化学は、医薬品に代表される生理活性物質から電子材料に代表される機能性有機材料に至る新しい分子を、環境に適合したサステイナブルな方法で作るための科学・技術として、現代社会を支える重要な役割を果たしています。19世紀中頃にWilliam Perkinが世界最初の合成染料であるモーブ(mauve)を合成しましたが、そこに有機合成化学がもつ全ての側面を見る事ができます。Perkinが当時強く求められていたマラリヤの治療薬であるキニーネを石炭産業の廃棄物であったコールタールから合成しようと思ったこと、キニーネの合成には至らなかったが偶然にも合成染料であるモーブの合成に成功しそれを産業化したこと、モーブは染料としては成功しなかったがPaul Ehrlichが結核菌の染色にモーブを用いたことをきっかけとしてやがてスピロヘータに選択的な親和性をもつ色素を発見し化学療法学が生まれたことなどです。これらはよく知られていることではありますが、現在の化学工業や医薬品産業のルーツがここにあることは言うに及ばず、それらが互いに関係しあっていることや「大逆転」が起こっていることに、今更ながら強い感銘を受けます。
グローバル化の結果、世界の科学・技術レベルの格差が縮まるなかで、日本の有機合成化学はあくまでも新しい分子を作る技術を高めるための新たな方法や反応の開発を続けていかねばなりません。一方では、Perkinの例に倣い、有機合成化学の世界の広がりをいっそう求めていく必要があると思います。関西は有機合成化学の力の強い地域ですが、これまでの成果に甘んじることなく、「より深く、より広く」を目指して関西支部の活動のお世話をさせていただきたいと思います。皆様方のご支援ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2012年度有機合成化学協会・関西支部長
戸部 義人

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